こんなことになるまで、自分の気持ちにも、邑輝の気持ちにも気付かないなんて。
俺も、相当のバカなんだ。
≪トラブルパニック症候群 3≫
「………いくら休みだからって、昼間から」
「貴方が誘惑するからいけないんですよ」
「……俺の所為じゃないもん」
いつも通りの科白、その筈が。
言っているのは自分じゃなくて、お互いなんだ。
…っていうか、いくらお互いになりきろうって言ったからって。
何も俺、ここまでしなくても良かったんじゃないかなぁ。
「…………邑輝」
「……なんですか、都筑さん?」
いきなり自分に戻るのも何か恥ずかしい気もするけど、このままじゃ埒が明かない。
「…いつまでやるんだよ、このごっこ遊び」
「いや……ホントはもう少し早い段階でやめようと思ったんですけどね」
……え??
今こいつ、なんて言った?
「貴方があまりにのって下さるものだから、このまま行為に持ち込むのもいいかと思ってしまって」
「な…っ……お、お前、なんで止めなかったんだよ!」
「……普段の状況で貴方に抱かれるのは嫌ですけど、貴方の体で自分に抱かれるなら、
それも楽しいかと思いまして」
楽しくねーよ!!
つーかこいつ、やっぱり変。
いくら自分の体じゃないからって…っていうか相手は自分の体なんだぞ?!
気持ち悪いとか無いのか……って俺も人の事、言えねーか……。
「…それにしても、三回しても戻りませんでしたねぇ」
「……だから、バカだろ、お前」
「でも、どうするんです? このまま戻れなかったら」
それは嫌だ。
俺に医者なんて出来ないし、邑輝みたいに振る舞うのだって限度があるし。
それに、何より。
「もし、戻れなかったら……俺…っ…」
勝手に、涙が溢れてくる。
この体でいると、邑輝の気持ちが痛いほど解る。
普段邑輝が俺の事をどう思っているのか、どんな風に俺を見ているのか。
ずっと知りたかった事だから、それを知る事が出来たのは、すごく嬉しい。
でもこの姿でいる限り、俺は邑輝の姿が見れない。
俺だけに見せてくれる優しい笑顔も、赤面するような気障な科白を吐く声も。
抱き締めてくれる力強い腕も、驚くほど柔らかい甘い唇も。
何も、感じられない。
「都筑さん……泣かないで」
辛そうな声も、哀しそうな表情も、優しく頭を撫でる掌も、それは邑輝じゃない。
俺の声で、俺の表情で、俺の掌で。
ずっとこのままなんて、嫌だ。
「…っ…俺の理想の邑輝なんていない……お前じゃなきゃ、意味無いよ……」
本当は、いつだってそう感じてた筈なのに。
どうして、気付けなかったんだろう。
「…私だって、同じですよ……私の体で、貴方を抱き締めたい…」
お互い、気付けなかったんだ。
一緒にいる時間が長過ぎて、まるで空気のように当たり前になっていたから。
本当に大切で、大好きで、こいつじゃなきゃダメなのに。
ソファーの上で抱き締めあったまま、気付けば俺は眠りに着いていた。
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