誕生日っていえば、やっぱりケーキ?
でも甘いものが好きじゃなかったら、あんまり嬉しくないよな。
プレゼントも必須かな。
でも金持ちのヤツって、欲しいものとか自分で買えるよな?
じゃあ、お金で買えないもの?
…っていうと、嫌な予感しかしないんだけど。
俺は、アイツの為に何が出来るんだろう。
≪Give Me You≫ 前編
「はぁ…」
一体、本日何回目の溜息だろうか。
普段からはかどらない仕事は、輪を掛けて酷い状態だ。
頬杖をついてぼんやりとしては、落ち込んだように溜息を洩らす。
一字書いては止まる筆では、今日提出の書類は確実に間に合わないだろう。
「……都筑」
「へ? 何?」
「巽さんが睨んでるぞ」
当然の如く提出を済ませている密は、隣からポツリと声をかけた。
親切心から、というよりは、巻き添えを食らいたくないというのが本音だ。
密に言われて、初めて気が付いた。
ひしひしと、痛いくらいの殺気を感じる。
「うわぁ…」
「さっさと終わらせろよ。 仕事中に余計なこと考えてないで、な」
「密……聞こえた?」
「…アイツのことなんて、聞きたくもねぇよ」
ああ、聞こえてたんだ…。
自分にとってはどうでも、密にとってはいい気分な筈がない。
ごめん、と小さく謝ると、大人しくデスクに置かれている紙に向かった。
終わったら、亘理にでも相談してみよう、と思考をまとめて。
「亘理ぃー、居るー?」
なんとか書類を書き終えて、亘理に会う為にラボに向かう。
覗き込むと、金髪の後ろ姿を見付けた。
…テーブルの上に所狭しと並ぶ、怪しげな液体や煙は、見なかったことにする。
「おお都筑、お疲れさーん」
「お疲れー。 今ちょっといいかな?」
「ん? なんや、実験体の志願か?」
振り向いた瞳が、突然キラキラと光り出す。
期待を裏切るようで申し訳ないけど、今はそれどころじゃない。
「あ、ごめん。 違うから」
「即答やな〜…ま、ええか。 んで、なんや?」
「ええと、邑輝のことなんだけど…」
邑輝と恋人、という事実は、周知のものである。
だからといって、密や巽に相談するのも気が引けて、亘理に告げることにした。
内心気持ちのいいものでは無いだろうが、笑って聞いてくれる。
それだけでも、都筑にとってはありがたいことだった。
「ああ、分かったでぇ」
「は? (まだ何も言ってないんだけど)」
「明日、ダンナの誕生日やもんなぁ」
亘理は、ラボのデスクの上に、小さなカレンダーを置いている。
そのカレンダーには、閻魔庁内の親しい人物の誕生日、飲み会の予定などなど。
びっしりと、色とりどりのペンで書き込まれているのだ。
そして何故か、邑輝の誕生日までも。
ひょいと持ち上げたカレンダーを、都筑の目の前でひらひらと揺らす。
その向こうでは、悪戯っぽく笑う顔があった。
「……なんで、邑輝の誕生日まで書いてあんだよ…」
「お? なんや、嫉妬か? 男の嫉妬は醜いでぇ〜?」
「いや、嫉妬とかじゃなくて…亘理には必要ないだろ?」
「そんなことあらへん。 都筑が忘れてたら教えてやらな」
俺はそこまでボケに思われてるのか?
という切ない疑問は置いといて、とりあえず相談することにした。
「あー、あのさぁ…」
「ん、大丈夫や。 ちゃんと聞くで?」
「…サンキュ。 あのな、誕生日ってさ…
やっぱりプレゼントとかあげた方がいいよな?」
そんなに的外れな質問だっただろうか。
きょとんとした顔で見返された。
「…まぁ、そりゃ、あげた方がええんとちゃう?」
「ん、でもさ…アイツ……金持ちじゃん?」
「都筑は貧乏やしな」
「………うん、そうなんだよなぁ…」
これがもし、経済力が同じくらいか、もしくは普通だったら。
それほど悩む必要も無いかもしれないけど。
相手が大金持ちとなれば、話は別だ。
だって欲しいものなんて自分で買えるじゃん!ということになる。
「ケーキでも作ろうかな、って思ったんだけど…」
「いやいやいや、それはやめといた方がええやろ」
「だよねぇ、アイツ甘いもんそんな好きじゃないし」
そういう問題じゃない、とツッコミを入れたくなった亘理だったが。
本人が自覚していない以上どうしようもないので、スルーした。
「つっても高級志向のヤツにさ、安物プレゼントする訳にもいかないし」
「せやなぁ」
「金がかからなくて、なおかつアイツが喜ぶようなものっていうと…」
「そんなもん簡単やろ?」
にやり、とあまり質のよろしくない笑みを浮かべた亘理に、嫌な予感。
「自分にリボンつけてぇ、『プレゼントは、お・れv』って」
「却下」
予感的中。
自分の中で浮かんだ嫌な案と見事に一致して、微妙にムカつく。
「ええやん、センセは絶対喜ぶと思うで?」
「いくら喜んでくれても、それは俺がヤダ」
「ワガママなやっちゃなぁ。 ほんなら、いっそ直接聞いてみたらどうや?」
「……『プレゼントは貴方でv』とか言われたら?」
「別にええやろ。 初めてって訳でもあらへんしv」
「そっ…! そういう問題じゃねーの!!」
何となく解ってはいたけど、解決はしなかった。
結局、何の用意もしないまま、邑輝と会うことになる。
………どうしよう、俺。
Back Next