寒い冬の、楽しみ方。
















≪快感温度≫















「……なーんでさぁ、こんな日に俺の部屋なんだよ?」


「何かご不満でも?」


「邑輝の部屋の方があったかいじゃん。
 俺の部屋ってストーブも無いし、こたつも無いんだよ」






そう、今日は珍しく、都筑の家に来ている。



邑輝のマンションで寝泊りし、殆ど一緒に暮らしていると言ってもいい程だが。

だからといって、全く家に帰らない訳でもなく。

自分の家に帰ったあと、邑輝の家に行き泊まるのが日常だ。



その為、邑輝が都筑の部屋を訪ねることは数える程しか無かった。

大体邑輝は人間だし、いくら巽や密や亘理が恋人として認めてくれていても。


やはり現世の人間を冥府…死んだ人間の世界に連れて行くのは、あまり気乗りしない。




だが何故か、今日は絶対に都筑の部屋がいい、と。

我儘な恋人が、頑として譲らなかったのだ。







「こんな寒いってのに…お前は寒くないわけ?」


「そこそこには寒いですよ。
 それに、私の恋人になるまで貴方はこの部屋でいつも過ごしていたのでしょう?」


「そうだけど…いつも寒いんだよ、ここ」


「じゃあ、いつもはどうやって寒さを乗り切っていたんです?」






やたらと楽しそうな邑輝を、少々不気味に思いつつ。


邑輝とこんな関係になるまでの自分を、ゆっくりと思い出す。






「やっぱり……熱燗?」


「………中々渋いですね」


「…邑輝は日本酒って嫌いだっけ?」


「嫌いというわけでは……でも、あまり飲みませんね」


「まぁ、あんまりイメージねぇな……でも、似合いそう」


「どういう意味ですか、それ…」







何でもないような会話を交わしながら、邑輝が白い手をそっと伸ばして。


Tシャツの襟から伸びる首筋に、指を這わせた。







「っうわぁ…ッ……お前、手ぇ冷たいんだからやめろよ!」


「寒いんだから仕方ないでしょう?

 ……でも、貴方は温かいですね」






抱き寄せて、頬に唇を触れさせて。

指先で耳朶に触れて、もう片方の手で頬や首筋を撫でる。



余程冷たかったらしく、身体を縮ませた。






「身体はあったかくても寒いんだよっ! 見ろ、ほら鳥肌っ」


「そうでしょう? 逆もまた然りでね……私にとって、夏がどれほど地獄だったか…」







遠い目をして、フッと冷めた笑い方をする邑輝を見て、あの猛暑の記憶が蘇る。


あの暑い中で冷たい体温を保っている邑輝に、べたべたとくっついて。

冷た〜い、気持ちいい〜♪と好き放題していた、天然ドSな都筑。






「………もしかして、邑輝って結構根に持つタイプ?」


「あれをあっさり忘れる方がおかしいでしょう」







溜息を吐きながら、掌を都筑のシャツの中に滑り込ませ、更に身体を密着させる。


都筑はまさに、人間カイロ状態。






「……………」


「…都筑さん? ……怒ってます…?」






邑輝は、都筑に怒られたり、嫌われるのを必要以上に怖がる。


ちょっとやり過ぎただろうか、こんなことで嫌われたくはない。




様子を窺おうと少し身体を離すと、今度は都筑の方から抱きついてきた。







「……怒ってないの…?」


「いや、なんかくっついてたらさ、あったかくなってきたし」






都筑の体温が邑輝にも移ったのか、冷たかった身体はほんのり温かい。


人肌、ましてそれが、大好きな人のものならば。







「なぁんかさー…」


「何ですか…?」


「んー…ここ、俺の部屋で…暖房とか何も無いのに…。

 なんていうか、お前がいると……あったかい」


「……それは、良かった」






時々こうして、都筑はさらりと口説き文句のようなものを言う。

それに他意が無いだけに、邑輝の方が困惑してしまう程。



けれど、何とも言えない、幸せそうな顔で言われると。




邑輝まで、幸せな、温かい気持ちになってしまう。







「…たまには、いいかも」


「抱き締められるのが?」


「それはいつもだろ。 そうじゃなくて……。

 ……俺の部屋に、お前が来るの」






そう言って重ねた唇は、いつもより温かい気がした。









寒い季節、寒い部屋で。

触れ合う二人の体温は、快感温度。













結局、仕返しにならない邑輝であった。















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