ポツ、ポツ、ポツ。
開いた傘に、微かに当たる雨の音。
その音が消えないようにと、祈りながら街を歩いた。
≪傘の向こう側≫
珍しく定時に仕事が終わって、その帰り道。
朝から降り続ける雨に、少し憂鬱になっていた時。
都筑が思い出したのは、大した事ないから、と傘を持たずに仕事に行った恋人の姿。
「…迎えに行っちゃおうかな…」
二人で暮らすマンションから、そう遠くない所に邑輝の勤める病院がある。
今日は邑輝の帰りも遅くない。
家で待っていれば、きっとすぐ帰ってくるだろう。
「…でもなぁ…」
いつも一緒にいられる訳ではないから。
少しでも早く逢いたくて、少しでも長く傍にいたくて。
「…よしっ、決めた!迎えに行こう!!」
「…何でこんなちょっとしか降らないんだよ…」
意気込んではみたものの、元々小降りだった雨は更に勢いを無くし。
傘を傾け滑り落ちる雫は少なく、虚しい想いに包まれる。
「早く来ないかな…」
傘の向こう側、少し遠く。
嬉しそうに此方を見ている邑輝に気付くのは、もう少しあとの事。
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