「アイツ、…元気かな…」



邑輝に逢えない日々が、もうずっと続いている。

本当は毎日逢いたいけど、それはワガママだと分かっているから。

でも、やっぱり。




「…逢いたい」










≪にわか雨≫










片手に先程買ったケーキを持ち、一人立ち止まりポツリと呟く。

わざわざ地上まで買い物に来たのも、偶然を期待しての事だったのに…。





「…帰ろ」




これだけたくさんの人がいるのに、どんどん濃くなってゆく、孤独感。

同時に押し寄せた虚しさに、都筑は重い足取りで一歩踏み出した。






「…都筑さん?」





聞き慣れた、声。

振り向けば、思った通りの姿があった。




「…邑、輝?」




一瞬、時が止まった気がした。

それがホントだったら、良かったのに。

ずっと、一緒にいられるのに。





「どうして、ここに…?」


「あ…お、俺、ケーキ買いに来てて…」






ふと、手や顔にポツポツと何かが当たった。




「あ、雨…?」


「来なさい」


「え、うわっっ」




都筑の手を引いて押し込めた場所は、邑輝の車の中。

どうやら、元から車に乗っていて、都筑が見えたのでわざわざ降りて来たらしい。




「びっくりしたぁ…」

「にわか雨でしょう…すぐに止みますよ」





―――止んで欲しく、ないな。






「…え?」




邑輝の間の抜けた声に我に返り、自分の想いを口に出していた事に気付く。

心の中で、そっと想ったつもりなのに。




「…同じ事を想っていてくれたのですね…嬉しいですよ」




くす、と微笑む邑輝は、とても嬉しそうだった。


いつものドキッとするような微笑みじゃなくて、子供のような無邪気な笑顔。

そんな表情が見られるのは自分だけだと思うと、都筑も嬉しくなる。

でもそれ以上に、同じ事を想っていてくれた、という事が嬉しくて。



だから、どんな気持ちも伝えたい。





「このまま、雨の音とお互いの音しか聞こえない、狭い空間の中でずっと二人きりでいたい…ね、一緒でしょ?」




………




「あ、あのね、邑輝っ…」




しばらくの沈黙の後、一つの決意をして言葉を発しようとしたその時。

暗い雲の隙間から、太陽が顔を覗かせた。





「…雨、上がりましたね」


「…そうだね…。…俺、帰るよ」





なるべく邑輝と目を合わさないようにして、車外に出ようとする。

目が合ったら、きっと泣いてしまうだろうから。



でもそれは、冷たい体温に阻まれた。





「邑ッ――!!」




振り向いた瞬間、何かが唇を掠めた。

誰にも見つからないように、ほんの一瞬だけ。


それでも、自分の身に何が起きたかは、すぐに分かった。



驚いて咄嗟に見た邑輝の白い頬が、少しだけ赤く染まっていたから。


恥ずかしさからか、追い出すように都筑の背を押した。





「…今夜電話しますね」





そう一言、耳元で囁いて。










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