「俺、鬼になりたいな」 「…どうしてですか?」 「だって、君すぐに捕まえられそうじゃない」 「……また意地悪…」 「ははは、それが俺でしょ?」 ≪鬼事≫ 「はい、みんな集合〜☆」 「……また、大会?」 もはや恒例となった、サルヴァトーレファミリー限定?の大会。 主催者のニコール曰く、『大会ブーム』らしい。 そして何故か賞品として扱われやすいは、いつものごとく不安を感じていた。 「今度は何だい? また、激辛モノに挑戦させられるのかな」 「ンフフ〜♪ ルッチー、は・ず・れ。 今回は違うわよ」 「おいっ、またを賞品にするつもりじゃないだろうな」 「もう、ヨシュアは黙っててちょうだい! 今回は…かくれんぼよ!」 高らかに言い放ったニコールに、揃って訝しげな視線を向ける。 「かくれんぼって…ガキの遊びじゃねぇか。 なぁルチ?」 「そうだねぇ…イマイチやる気が起きないんだけど」 「ニコールらしくないな…どうした?」 「……ニコ、何か悪いものでも食べた?」 「そうですね……それでニコール、賞品は?」 それぞれ好き勝手に、文句やニコールへの心配?を口にする。 だがキリが無いと思ったのか、メディシスが先を促した。 「まったく、失礼ねっ! ……賞品は、もちろんちゃんよ」 「…ぇえええっ??!! またですか?!」 「おい!! だからを勝手に賞品にするなと…」 「あら、じゃあヨシュアは不参加ね」 「……参加しないとは言ってないだろ?」 「ちょっとヨシュアまで…!」 「はぁーい、じゃあルールを説明するわよ〜♪ まず、ちゃんがどこかに隠れるの」 「え…私が、ですか…?」 「そうよ。 あ、時間は5分あげるから、好きな場所に隠れてちょうだい。 で、5分経ったら、全員でちゃんを探すのよ☆」 「か、隠れるのって私一人ですか?!」 「普通にやったら面白くないじゃない? それで、ちゃんを最初に見付けた人が、そのままお持ち帰りってこと♪」 「お、お持ち帰りって…」 「ほう…それは面白そうだな」 「…グロリア、結構本気ですね?」 「当然だ、何事もやるからには負けは許されない」 「ふふ……同感です」 「……をお持ち帰り…」 「あれ? ヴィシャス、子供の遊びだからやらないんじゃないの?」 「そ、そういうルチだって、やる気が出ねぇとか言ってたじゃねーか!」 「いやいや、ちゃんをお持ち帰り出来るなら、やるしかないでしょ」 「くそっ…絶対阻止だ。 は俺が持ち帰る!」 「ヨシュアには無理。 …僕が勝つよ」 「なんだと?!」 「さて……じゃあちゃん、隠れてちょーだい☆」 「……はーい…」 押しに弱いは、言われた通り隠れる場所を探すのであった。 「……か、隠れる場所って言っても…」 広い屋敷だから、隠れる場所は十二分にある。 だが、制限時間は5分。 そう複雑な場所には辿り着けそうもない。 「どうしよう…」 自分の部屋…だと、すぐに見付かってしまう可能性が高い。 『あと1分よ〜!』 階下からニコールの声が響く。 慌てて近くの部屋に飛び込んで、隠れられそうな場所を探す為、辺りを見回す。 「あれ、この部屋って…」 『…よーい、スタート〜☆』 「え…もう?!!」 バタバタと騒がしい足音が聞こえる。 …銃声のようなものは、気の所為だと思いたい。 このままぼんやりしていたら、見付かってしまう。 慌てふためきながらも、は何とかベッドの下に潜り込んだ。 一体、どれくらいの時間が経ったのか。 僅かな隙間から様子を見ていたが、まだこの部屋には誰も来ていない。 ベッドの下って、ベタな場所過ぎて、意外と誰も探さないのかも…。 そう安堵したのも束の間、足音が近くで立ち止まる。 思わず身体を縮こまらせて、息を潜めた。 けれど抵抗空しく、目の前のシーツが捲られていく。 「……ちゃん、みーっけ」 シーツの隙間から見えるのは、クセのある蒼い髪と、悪戯っぽい笑顔。 「……ル、ルチアーノさん…」 「ほら、観念して出ておいで」 「は、はい…」 差し出された手を取って、ベッドの下から這い出る。 立ち上がってルチアーノを見上げると、楽しそうな笑みを浮かべていた。 「ホント、ちゃんって面白いよね。 普通ベッドの下なんて隠れないでしょ」 「でも、時間も無かったし…他に思い付かなかったんです」 「へぇ、そうなんだ。 じゃあ、どうして俺とヴィシャスの部屋にしたの?」 「ニコールさんの、あと1分って声が聞こえたから、焦っちゃって…。 慌てて近くの部屋に飛び込んだんですよ」 「俺のベッドの下に隠れたのも、慌ててたから?」 「そうですけど…」 「ふぅん…残念だな」 「残念…ですか?」 「そ。 もしかして、お持ち帰りする手間を省いてくれたのかなーとか思ったんだけど」 「そ、そういう訳では…!」 「違うのか…じゃあ、俺が見付けない方が良かったかな?」 「え…そ、そんなことは…」 「……嘘だよ」 「きゃっ!?」 背中に柔らかい感触、一瞬閉じた目を開けると、優しく微笑むルチアーノが居た。 「君が見付けて欲しくないって言っても、俺は見付けるからね」 「ルチアーノさん…?」 「……この間の話、覚えてるかい?」 「えっと…あ、鬼ごっこしようって話ですか?」 「うん。 …俺は鬼になりたいって言ったよね」 「はい……私のこと、すぐに捕まえられそう、って意地悪言いました」 「だって本当のことじゃない。 今日だってすぐに捕まったし」 「……今日は、かくれんぼです!」 「はは、同じだって。 ……ねぇちゃん」 「なんですか?」 「……君も、鬼になりたい?」 「うーん…というか、ルチアーノさんが鬼で、私が捕まったら…次は私が鬼になりますよね?」 「うん、そうだね」 「…じゃあ、私が鬼になったら、絶対すぐに捕まえてみせます!」 「…君が? 俺を?」 「はい!」 「くっ…あはは! そっか、すぐに捕まえてくれるのか」 「…信じてませんね?」 「いやいや…期待してるよ、ちゃん」 「任せて下さい! あっという間に捕まえますからね」 「そっか…そうだね。 ちゃんと捕まえてくれるなら、鬼じゃなくてもいいか」 「? ルチアーノさん?」 「なんでもないよ。 …じゃあ今度は、二人だけでかくれんぼでもしよっか」 「鬼ごっこじゃないんですか?」 「どっちでもいいさ。 君の好きな方で」 「じゃあ、鬼ごっこにしましょう? この間もそう話していたし」 「分かったよ。 …何なら、今からする? デートがてら、さ」 「…ルチアーノさん、足速いんですよね…」 「でも、捕まえてくれるんでしょ? だったらいいじゃない」 「うー…」 「それに、かくれんぼ大会は俺の勝ちだからね。 賞品のちゃんは、デートくらいしてくれるよね?」 「…分かりました…デートします…。 ……あ、あの、それならそろそろ、どいてもらえると…」 「ああ…そうだったね。 …『お持ち帰り』はしないけど、このくらいはいいかな?」 「え?」 「ちゃん、目を閉じてもらえる?」 「え、あ、はい…」 「…ホント、素直というか何というか……そういう所が」 唇に触れた、柔らかな感触。 一瞬で離れたそれを、けれど忘れることは出来ないだろう。 思わず目を開けたの目の前で、ルチアーノはいつものように悪戯っぽく笑っていた。 「……可愛過ぎて困るよ」 「…ルチアーノさん、今……」 「さて、そろそろ行こうか。 俺が勝ったってこと、ちゃんと言ってこないとね」 「あ、あの…」 「ほら、早くしないと置いてくよ?」 「ま、待って下さい!」 追いかけて、捕まえて、逃げて、捕まえられて。 二人だけの、鬼事。 さあ、今度はどっちが鬼? Back |